| +GOKI'S MANACE+ |
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| 少し蒸し暑くてふと目が覚めた。 時計を見ると3時半を回っていた。 デュオはそっとベッドから起きだして部屋を出た。 隣の部屋で眠っている聡い同居人を起こさないように足音をなるべく消してキッチンに向かった。 水道の水をひねってコップに軽く水を注ぐ。 一気に飲み終えるとひどく喉が渇いていることに気づいた。 目が覚めた理由はこれか…などと思いながらコップを流しに置いた。 そのとき黒い物体が流しの横を通り過ぎた。 「うわっ!!」 思わずビックリして声を出してしまった。 そのまま2、3歩後ずさるとテーブルの椅子に踵がぶつかった。 そのまま椅子の上に乗りあがり動く物体の動向を見下ろす形で見る。 そいつは何をするでもなく流しの中でじっとしている。 (どうしよっかな…) なんて思いはするもののどうしても動く気になれない。 ほんの数分、もしくは数秒だろうか、考えこんでいるとカチャっと扉の開く音が聞こえた。 その音に我に返って振り向くと、今まで寝ていたのかと思うくらいのはっきりとした声が聞こえた。 「何をしている?」 「悪い。起こしたか?」 「声がした。何かあったのか?」 どうやらさっきの自分の声で起こしてしまったらしい。 (そんな大声だったっけ?) 思い返していると、ヒイロが少し眉をよせてこちらを見上げている。 その視線に気づいて慌てて説明をする。 「ああ、悪ぃ。えっとアレ。」 言いながら流しの方を指さす。 説明といってもこれ以上しようがない。 ヒイロは指をさした先を見る。 「?」 「流しの中。」 ゆっくり近づいて流しの中を見る。 そこには先ほどと同じ位置に黒い物体がじっとしている。 「ゴキブリか…。」 無表情のままそう言うとヒイロは電気を点けに行った。 「なあ、あれって何?」 「家庭内害虫だ。知らないのか?」 テーブルの上の新聞を取りながらヒイロが答える。 「だってさー、コロニーにあんなのいなかっヒ、ヒイロッ!動いた!!」 ヤツが流しから上に上がろうとしている。 俺が椅子の上で慌てた声を出してると、新聞を丸めたヒイロが気配を殺して近づいてきた。 「少し黙ってろ。」 そう言うと新聞をヤツめがけて一気に振り下ろした。 グシャ。 そんな音があってるかな。 完全に逝ったぜアイツ。 アーメンと心の中で祈りながら俺はヒイロが新聞を片付けるのを見ていた。 「終わったぞ。」 ゴミを捨てて戻ってきたヒイロが言った。 「ああ、ご苦労サン。サンキュな。」 「いや。…それよりいつまでその体制でいるつもりだ?」 ヒイロが少し意地の悪い笑みを浮かべながら聞いてくる。 「えっ?」 言われてふと自分の体制を確認する。 椅子の上に立ったままの状態だったりして……。 「あ、ははっ。」 頭を掻きながら軽く笑って何事もなかったかのように降りようとしたら……。 「怖かったのか?」 質の悪そうな笑みを浮かべながらヒイロが近づいて来た。 「っ、そうじゃなくてっ。いきなりでビックリっうわっ!!」 いきなり足からヒイロに抱き上げられた。 「な、何すんだよっ!?」 肩に担がれながら問いかける。 「怖かったんだろう?部屋まで運んでやる。」 「怖くないって!自分で歩けるから降ろせって!」 「戻るついでだ、気にするな。」 (気にするっつーの!!) 声に出さずに突っ込んだ。 そんなやり取りをしているうちにトサッとベッドに下ろされた。 「あのーヒイロさん、ここ俺の部屋じゃないんですけど?」 言いながら起き上がろうとすると、やんわりと肩を押し返された。 「ヒイロ?」 「起きるにはまだ早い。いいから寝ろ。」 「だから、えっと。」 「お前に寝ていたところを起こされたんだ。何もしないからここで寝ろ。」 そういいながら自分もベッドに横になり、デュオを背後から抱きしめる。 抱きしめられて一瞬ビクッと緊張したけど、言葉通り何もしてこないことに安心して力を抜いた。 ――デュオはヒイロと一緒に住み始めて1月になるが、まだそういう関係にはなっていない。 二人共同じ気持ちを抱いていても、デュオはまだ先に進むことをどこかで恐れている。 ヒイロはそんなデュオのことを焦らずに辛抱強く待っている。 そんな彼の想いを知っているからこそ、今の状況に居た堪れなさを感じる。 それをまた分かっているかのようにヒイロは優しく抱きしめてくれる。 そんなヒイロの不器用な優しさに触れた気がして、デュオはヒイロの方に向きを変えた。 そしてそっと触れるだけのキスを送った。 (ごめんな。) 「っデュオ?」 ヒイロがビックリした顔をして覗きこんでくる。 けれど自分でも顔が赤いのが分かる。 それを見られたくなくてギュっとヒイロの胸に顔を押し付けた。 「デュオ。」 今度はすごく優しく名前を呼ばれた。 ゆっくり顔を上げると、髪をかき上げられておでこにキスされた。 そのまま瞼、鼻、頬にキスを落とされ、最後に唇に到着した。 まるでデュオの気持ちに答えるかのように。 「ん。」 それは軽く合わされるだけで解かれた。 「ヒイロ…。」 ヒイロはただ抱きしめてくれる。 そのままじっと眼を閉じると、ヒイロの心臓の鼓動が聞こえる。 その規則正しい音に安心していると眠気が戻ってきた。 「おやすみ、ヒイロ。」 「ああ。」 もう一度おでこにキスをされて、俺は眠りに落ちていった。 不思議と蒸し暑さは感じなかった。 あとがき |